こんにちは。Horyです。
以前に私が書いた記事で熱平衡の系に関する説明をしたことを覚えていますでしょうか?
複数の系を熱接触させる話の中で、接触前と接触後で別の熱平衡状態に移動するという話をしました。
そして、別の熱平衡状態へ移動させる過程は非平衡状態という話もしました。
現在の物理学では非平衡状態を秩序付ける物理法則は存在しません。
そのため、「熱力学の問題を解くことができないのでは?」という意見を持つ人がいるかもしれませんが、実は、問題を解けるようにできるトリックがあるのです。
今回の記事ではそれらのトリックに関して詳しく解説します。
今回も頑張りましょう。
熱力学の特徴
熱力学が力学と異なる点(熱力学の特徴)をいくつか解説します。
- 運動方程式(微視的)から導けない
- 時間の概念が登場しない
- 時間の巻き戻しができない
これらの3点に関して個別に解説をします。
運動方程式(微視的)から法則を導けない
熱力学の目的の記事でも話しましたが、熱力学の目的も力学と同じく「未来を予言すること」です。
容器内の莫大な粒子全てに運動方程式を立てればミクロ的観点から理論上は予測は可能ですが現実的には不可能です。
そのため、まとまった集団を一塊としてマクロ的観点(巨視的)から未来を予言します。
「微視的な運動方程式から法則を導けない」とはどういうことかというと・・・
例えば、熱力学の巨視的法則の一つに「熱力学第二法則」というのがあります。
これは、「系が途中で非平衡状態になる変化は戻すことができない」という法則です。
もっと分かりやすく説明すると「熱い系から冷たい系に熱は移動しますが、その逆は絶対に起こらない」ということです。
この法則は系の莫大な粒子全てに運動方程式を立てて未来予言をすれば求めれそうに思えますが不可能です。
そして、さらに面白いのが、仮に熱力学第二法則が成立しない(変化後から変化前に戻せる)としても微視的法則(運動方程式)に矛盾しないということです。
時間の概念が登場しない
熱力学には基本的には時間の概念が存在しません。
時間の概念が登場しないということは体積や圧力といった物理量を時間の関数で表せないということなので、時間追跡ができません。
ここで、重要なのがあくまで「未来予言ができない」というわけではなく「時間追跡ができない」ということです。
これが後に説明するトリックと綿密に関係してきます。
時間の巻き戻しができない
自然界で起きる熱力学の現象は変化前後の過程が「非平衡状態」です。
そのため、先ほどの熱力学第二法則で話したように「変化後→変化前」に完璧に戻すことは絶対に不可能です。
だから、熱力学ではマクロ的観点から見て時間の巻き戻しが不可能です。
熱力学のトリック
熱力学のトリックに関して解説します。
自然界で起こる熱力学における変化の過程は「非平衡状態」です。
そうなると、「非平衡状態なら物理法則もないから問題解けないじゃん!」と思うかもしれませんが・・・ 皆さんは熱力学の問題文を読んでいるときにこんな文章を見ることはありませんか?
- 系の体積を「ゆっくり」変化させる
- 系の圧力を「ゆっくり」変化させる
- 系の温度を「ゆっくり」変化させる
物理学の暗黙の了解ですが「ゆっくり」というのは「無限の時間をかける」ということを意味します。
これが熱力学のトリックで「無限の時間をかけて変化させる」のであれば、変化の過程も「平衡状態」とみなすことができて物理法則を当てはめられるから問題が解けるという意味です。
このような無限に時間をかけて変化させる過程を準静的過程と呼びます。
先ほどの説明における「未来予言ができない」わけでなく、「時間追跡ができない」というのはこういう意味だったんですね。
熱力学の問題(特に熱サイクルの問題)は基本的に無限にゆっくり変化させる準静的過程だから問題が解けるということを覚えておいてください。